多頭飼育崩壊の原因と早期対応の重要性を徹底解説【獣医師執筆】

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近年、全国各地で深刻化している「多頭飼育崩壊」。本記事では、「多頭飼育崩壊 原因」と検索している方に向けて、その根本的な背景や実際に起こった事例をもとに、獣医師が問題点やリスクについてわかりやすく解説します。

飼い主の善意や知識不足から始まった飼育が、いつの間にか管理不能となり、最悪の場合には動物同士の共食いが発生するケースも報告されています。また、精神疾患との関連が指摘されるアニマルホーダーの存在も見逃せない問題です。こうした複雑な要因が絡み合う中で、どのように早期発見し、どんな解決策を講じればよいのかが、今まさに社会全体で問われています。

この記事では、現場で見られる具体的な事例を交えながら、多頭飼育崩壊の原因とそれに伴う問題点を明らかにし、今後求められる支援体制や防止策についても詳しく紹介していきます。

 

   

記事のポイント

   

  • 多頭飼育崩壊の具体的な原因と背景
  • 経済的・精神的要因が与える影響
  • 共食いや衛生被害などの深刻な問題点
  • 早期発見と解決策に必要な支援体制

    

    

    

多頭飼育崩壊の原因とは何か?

   

  

多頭飼育崩壊の定義と現状
知識不足が招く繁殖の連鎖
経済的貧困と飼育費用の増加
地域社会からの孤立が引き起こす問題
高齢化と健康状態の悪化による管理不足
アニマルホーダーと精神疾患の影響

  

   

多頭飼育崩壊の定義と現状

多頭飼育崩壊の定義と現状

   

多頭飼育崩壊とは、飼い主が自宅などで多数の犬や猫を飼育していたものの、管理しきれなくなり、動物たちが劣悪な環境で生活するようになってしまう状態を指します。これは単なる「動物好きが集めすぎた結果」ではなく、社会的な問題としても深刻化しています。

この問題の背景には、「飼い主の善意が裏目に出る構造」があります。たとえば、捨てられた動物を見捨てられずに保護しているうちに頭数が増えてしまい、結果的に餌や排泄物の管理が追いつかなくなります。すると、衛生状態が急速に悪化し、悪臭、感染症の蔓延、鳴き声による騒音など、近隣住民にも多大な影響を及ぼす事態に発展します。

現在では、全国各地で多頭飼育崩壊のケースが報告されており、その数は年々増加しています。自治体や動物愛護団体が対応に追われている現状もあるため、これは「一部の飼い主の問題」では済まされません。特に問題なのは、表面化するまで時間がかかることです。飼い主が孤立していたり、周囲との交流がなかったりすると、発覚が遅れ、動物たちの健康被害が深刻化してから初めて支援が入ることも珍しくありません。

また、動物たちだけでなく、飼い主自身も精神的・経済的に追い詰められている場合が多く、簡単に解決できる問題ではないのです。こうした現状を踏まえると、多頭飼育崩壊は「個人の飼育ミス」というよりも、「社会全体で向き合うべき福祉問題」と捉えるべきでしょう。

 

   

知識不足が招く繁殖の連鎖

知識不足が招く繁殖の連鎖

   

多頭飼育崩壊の大きな原因のひとつに、「動物の繁殖に対する知識不足」があります。結論から言えば、避妊・去勢手術の必要性や繁殖の仕組みについての理解が不足していると、飼っている動物が次々と子どもを産み、飼育数があっという間に増加してしまいます。

このような事態は、特に猫の飼育で多く見られます。猫は年に複数回の出産が可能で、1回の出産で平均4~6匹の子猫を産みます。避妊処置をしないまま複数の猫を同じ空間で飼っていると、気づいたときには30匹、50匹と頭数が膨れ上がってしまうこともあるのです。知識がないと、「自然に任せておけばいい」「勝手に減るだろう」という誤解を抱いてしまいがちですが、実際には全く逆の結果になります。

さらに、適切な繁殖管理がされていないと、近親交配による遺伝疾患や身体的異常が発生するリスクも高まります。病気の動物が増えれば医療費もかさみ、経済的にもますます追い込まれていくという悪循環に陥ってしまうのです。

この問題の厄介な点は、「飼い主が悪意を持っていない場合が多い」ということです。多くのケースで、最初は善意で保護した動物に対して、避妊去勢の必要性を深く考えずに飼い続けた結果、事態がコントロール不能になるのです。

したがって、飼育者への啓発活動が欠かせません。避妊・去勢の重要性や、適切な飼育数の上限について、飼い主がきちんと学ぶ機会を社会が提供することが、問題の予防につながります。知識の欠如が動物たちの未来を奪うことがあるという現実を、私たちはもっと真剣に捉える必要があるのです。

 

   

経済的貧困と飼育費用の増加

   

結論から言えば、飼い主の経済的な困窮が多頭飼育崩壊を引き起こす大きな要因となっています。動物の数が増えるにつれて、食費・トイレ用品・医療費などの飼育にかかる費用も比例して増加していきます。にもかかわらず、飼い主の収入がそれに見合っていない場合、最低限の世話すら困難になってしまうのです。

たとえば、猫を10匹飼っている場合、1ヶ月のエサ代だけでも1万円?1万5000円はかかります。さらに、トイレ用の砂やワクチン、去勢・避妊手術などを含めれば、初年度だけで数十万円の出費になることもあります。それに加えて、突然の病気やケガによって動物病院での治療が必要になった場合、1匹あたり数万円の治療費がかかるケースも珍しくありません。

しかし、経済的に余裕のない飼い主は、そうした費用を捻出することができません。すると、予防接種が受けられず感染症が蔓延したり、病気や怪我を放置してしまったりするようになります。結果として、動物たちの健康状態が悪化し、命に関わるような深刻な事態へと進行してしまいます。

一方で、経済的な問題に直面しても「手放すことができない」「誰かに助けを求めるのが恥ずかしい」といった心理から、飼い主が孤立してしまうケースもあります。これにより、状況がますます悪化し、第三者が介入するまで放置されることも少なくありません。

こうした現実を踏まえると、経済的支援やフードバンクの活用、動物医療費の補助など、行政や地域が支援できる仕組みの整備が重要だとわかります。動物を適切に飼育するためには、経済的な基盤が必要であるという認識が、社会全体に広まることが求められています。

 

   

地域社会からの孤立が引き起こす問題

地域社会からの孤立が引き起こす問題

   

多頭飼育崩壊の背景には、飼い主が地域社会とのつながりを失い、孤立しているという問題も大きく関係しています。つまり、孤立状態にあることで、飼育環境の異常に誰も気づかず、手遅れになるまで支援が届かないのです。

実際、近隣住民との関係が希薄だったり、家族や親戚と疎遠だったりする高齢者が多頭飼育崩壊を起こすケースが増えています。本人も「誰にも迷惑をかけたくない」「他人に弱みを見せたくない」と考え、問題を抱え込んでしまいがちです。そのため、臭いや鳴き声、ゴミの放置などで周囲が異変に気づくまで、問題が長期間放置されることもあります。

また、地域との接点がないと、飼育に関する正しい情報や支援制度に触れる機会もなくなります。保健所や動物愛護団体が提供している相談窓口や支援活動の存在を知らず、結果として誰にも頼ることができないまま崩壊を迎えるのです。これは、情報格差と孤立が結びついた典型的な悪循環といえるでしょう。

さらに、地域に信頼できる第三者がいれば、早期の相談や介入が可能だったかもしれません。たとえば、見守り活動を行っている自治会や民生委員がいれば、事態が悪化する前に手を差し伸べられた可能性もあります。ところが、都市部を中心に人間関係が希薄になっている現代では、そのような「つながり」がそもそも存在しない家庭も少なくありません。

このように、多頭飼育崩壊は単に動物の問題ではなく、地域社会のつながりや支援のあり方にも大きく関係しています。高齢者や独居世帯の孤立を防ぐためにも、地域全体での見守り体制や情報提供が今後ますます重要になってくるでしょう。

 

   

高齢化と健康状態の悪化による管理不足

高齢化と健康状態の悪化による管理不足

   

多頭飼育崩壊が発生する背景には、飼い主の高齢化や体調不良による「管理能力の低下」が深く関係しています。結論から言えば、加齢や病気によって身体的・精神的な負担が増すと、複数の動物の世話を適切に行うことが困難になり、結果として飼育環境が崩壊してしまうのです。

たとえば、毎日の餌やり、トイレ掃除、健康チェック、病院への通院など、動物の世話には多くの体力と時間が必要です。これが5匹、10匹、あるいはそれ以上となれば、若く健康な人でも継続するのは容易ではありません。高齢の飼い主にとっては、なおさら負担が大きくなります。

実際、腰や膝の痛み、視力の低下、認知機能の衰えなどが進むと、排泄物の処理が行き届かなくなったり、食事を与えることすら忘れてしまうこともあります。また、医療機関への通院が困難になれば、動物が病気になっても治療を受けさせることができず、苦しみながら命を落とすケースも見られます。

ここで重要なのは、本人に悪意があるわけではないという点です。むしろ、動物を大切に思っているからこそ手放す決断ができず、結果的に自分の体力では手に負えなくなってしまうのです。加齢に伴う「判断力の低下」もまた、適切な対処を遅らせる一因となっています。

こうした状況を防ぐためには、家族や地域、行政が早期に介入し、飼い主の生活状況や健康状態を把握することが不可欠です。高齢者向けの飼育支援制度や、動物の一時預かり、終生飼養施設などの整備も、今後の大きな課題となるでしょう。

つまり、多頭飼育崩壊は「動物の問題」であると同時に、「高齢社会の問題」でもあるのです。人と動物の双方が安心して暮らせる環境づくりのために、年齢や健康に応じた支援体制の構築が求められています。

 

   

アニマルホーダーと精神疾患の影響

アニマルホーダーと精神疾患の影響

   

アニマルホーダーとは、過剰な数の動物を収集・飼育し、その世話が行き届かなくなっているにもかかわらず、飼育をやめられない状態にある人を指します。この行動は一見すると「動物好き」と捉えられがちですが、実際には精神疾患と深く結びついているケースが多くあります。

精神医学の観点では、アニマルホーディング(動物収集癖)は強迫性障害や依存症、うつ病、認知症などの症状として現れることがあります。特に、孤独感や喪失体験などが引き金となり、「動物だけが自分を必要としてくれる存在」と感じることで、執着心が強まり、手放せなくなる傾向があります。

問題は、本人に病識(自分が病気だという自覚)がないことです。本人は「保護しているつもり」「命を救っている」と信じており、外部からの指摘や介入に強く抵抗するケースが非常に多く見られます。その結果、動物の健康状態が悪化しても気づかず、異常な数の動物が繁殖を続け、飼育環境が完全に崩壊する事態へと発展します。

また、こうした状況下では、動物の死体が放置されていたり、病気の動物が苦しんでいたりするにも関わらず、飼い主自身はそれを「日常の一部」として受け入れてしまっていることもあります。これは心理的な麻痺が進んでいる証拠であり、もはや個人の努力では改善が難しい段階です。

このように、アニマルホーダーの問題は精神医療と福祉の連携が不可欠です。行政が強制的に介入するには法的手続きや家族の協力が必要であり、単なる「飼育の失敗」として片づけてはならない問題です。

現在、日本ではアニマルホーディングに特化した支援体制はまだ十分ではありませんが、米国や欧州などでは精神科医と動物愛護団体が連携する取り組みが進められています。日本でも、こうした先進事例を参考にしながら、早期発見と支援の仕組みを整備していくことが重要です。

アニマルホーダーの問題は、飼い主自身の心の叫びでもあります。動物を守るためにも、飼い主の心と生活に寄り添う支援が求められています。

 

  

多頭飼育崩壊の原因と向き合うために

  

   

解決策に必要な支援と連携
多頭飼育崩壊の共食いリスク
行政とボランティアの役割と課題
問題点を浮き彫りにする周辺環境への影響
社会全体で防ぐための見守り体制
多頭飼育崩壊予備軍の特徴と早期発見のポイント

  

   

解決策に必要な支援と連携

解決策に必要な支援と連携

   

結論から言えば、多頭飼育崩壊の解決には、個人の努力だけでは限界があり、行政・地域・福祉・動物愛護団体など多方面の支援と連携が欠かせません。つまり、早期発見から再発防止までを一貫して支える仕組みが必要なのです。

まず、重要なのは初期段階での気づきと通報です。地域の住民や民生委員、配達員など、日常的に高齢者や一人暮らしの家庭に接する人々が「異変」に気づくことが、早期対応の第一歩になります。鳴き声や異臭、ゴミの放置など、些細なサインを見逃さないことが、崩壊を未然に防ぐ鍵です。

次に、行政の役割も非常に重要です。保健所や動物愛護センターは、通報を受けて現場確認を行い、必要に応じて飼い主への指導や動物の一時保護を行います。ただし、実際のところ多くの自治体は人手も予算も不足しており、限られたリソースで対応せざるを得ないという現実があります。

そこで頼りになるのが、民間団体やボランティアとの連携です。動物保護団体は保護後の譲渡活動や医療ケアを引き受けてくれる存在であり、行政だけでは難しい細やかな対応が可能です。また、社会福祉士や精神保健福祉士といった福祉関係者が、飼い主の生活や精神面の支援を担うことで、根本的な問題解決に近づきます。

さらに、資金的な支援も不可欠です。たとえば、飼育数を減らすための避妊・去勢手術にかかる費用を補助する制度や、動物の一時預かり、フードバンクの利用など、金銭的負担を軽減する仕組みが求められます。加えて、飼い主が問題を抱え込まずに相談できる窓口の周知と啓発も重要です。

このように考えると、多頭飼育崩壊の問題は「動物の問題」であると同時に、「人間の福祉の問題」でもあることがわかります。だからこそ、複数の立場からの支援が連携し、一人の飼い主と複数の命を同時に守る体制の構築が不可欠です。

 

   

多頭飼育崩壊の共食いリスク

多頭飼育崩壊の共食いリスク

   

多頭飼育崩壊の現場で、非常にショッキングな実態のひとつが「共食い」の発生です。これは単なる想像上の話ではなく、実際に発見されている深刻な現象であり、多頭飼育が限界を超えた結果として生じます。

共食いが発生する主な原因は、極度の飢餓状態とストレスです。適切に食事が与えられず、空腹が長く続くと、動物たちは本能的に生き延びるために仲間を襲うようになります。特に犬や猫など、ある程度の狩猟本能を持つ動物では、こうした行動が表面化しやすいのです。

加えて、狭い空間で多数の動物が生活している場合、縄張り争いやストレスの蓄積も加速します。噛み合いによるケガや死亡事故が多発し、死体を放置せざるを得ない状況になると、それを食料源とする事態に発展することさえあります。これは単に動物たちの健康を損なうだけでなく、現場全体の衛生状態を急速に悪化させ、周囲の感染症リスクも高めます。

さらに深刻なのは、このような状況に陥っても、飼い主が異常性に気づいていない場合があることです。精神的に追い詰められていたり、認知症などで判断力が低下していると、共食いが起きていてもそれを「普通のこと」として受け入れてしまっていることがあります。

このリスクを防ぐためには、早期の介入と飼育数の制限が必要です。特に、避妊・去勢をせずに繁殖が進んでしまう環境では、すぐに頭数がコントロール不能になり、食料・空間・医療のすべてが不足します。その結果として共食いという最悪の結果を招いてしまうのです。

このように、共食いは「限界を超えた飼育の末に起きる非常事態」であり、決して例外的な話ではありません。動物たちの命と尊厳を守るためにも、限界を迎える前の支援と、社会全体での監視と対応が求められます。共食いという悲劇を繰り返さないために、私たちは今、声を上げるべきなのです。

 

   

行政とボランティアの役割と課題

行政とボランティアの役割と課題

   

多頭飼育崩壊の解決においては、行政とボランティアそれぞれに重要な役割があり、両者の連携なくして問題の根本的な解決は成り立ちません。しかし現実には、役割分担が明確でない、または連携体制が不十分なまま支援が始まり、混乱を生むケースも少なくないのです。

行政の役割としては、まず現場への介入権限があります。通報や苦情があった際、保健所や動物愛護センターが実態調査を行い、必要に応じて動物の一時保護や飼い主への指導を行います。行政は「法律に基づいて動ける唯一の機関」であるため、法的手続きを要する場面では非常に重要な存在です。また、動物の譲渡先を探したり、避妊・去勢費用の補助制度を提供したりするなど、制度面での支援も担っています。

一方、ボランティアは実務面で大きな力を発揮します。動物の保護、ケア、譲渡活動など、行政が手の届かない部分を補完しており、現場では最も頼りになる存在といっても過言ではありません。さらに、動物の個性に応じた対応やSNSを通じた情報発信など、柔軟で機動力のある活動も特徴です。

しかし、課題も多くあります。まず、行政は人手・予算の不足に悩まされており、すべての案件に十分な時間と資源を割けるわけではありません。一方、ボランティア側は無償または自己負担での活動が多く、継続性や精神的・身体的負担が大きいという現実があります。

さらに、両者の連携が不十分だと、連絡ミスや情報の共有不足が起こり、現場対応が後手に回ることもあります。ときには「責任の押し付け合い」になってしまい、動物たちの救済が後回しになるといった問題も生じます。

このように考えると、今後は明確な役割分担と連携体制の構築が求められます。たとえば、行政が「制度・法的措置」に集中し、ボランティアは「実務支援」を担い、定期的に合同会議を開くなどの取り組みが有効です。

多頭飼育崩壊のような複雑な問題には、1つの立場だけでは対応できません。行政とボランティアが相互に信頼関係を築き、「動物の命を守る」という共通の目的のもとに動くことが、根本的な解決へとつながるのです。

 

   

問題点を浮き彫りにする周辺環境への影響

問題点を浮き彫りにする周辺環境への影響

   

多頭飼育崩壊は、飼い主や動物自身の問題として語られることが多い一方で、その影響は周辺の住環境や地域社会にも深く及びます。結論から言えば、放置された多頭飼育崩壊は、近隣住民の生活環境や安全、健康に直接的な悪影響を与えるのです。

まず、最もわかりやすい影響が「異臭と騒音」です。大量の動物を一箇所に閉じ込めて飼育していると、糞尿の処理が追いつかなくなり、悪臭が周囲に広がります。また、鳴き声が昼夜問わず続くこともあり、精神的なストレスを感じる住民も少なくありません。特に集合住宅や住宅密集地では、こうした環境トラブルが深刻なご近所トラブルに発展するケースもあります。

さらに、害虫や感染症のリスクも見逃せません。衛生管理が不十分な状態が続けば、ノミやダニ、ハエなどが発生しやすくなり、それが近隣住居にも被害を及ぼします。猫回虫やパルボウイルスといった動物由来の感染症が人間に感染する可能性もあり、住民の健康を脅かす事態に発展することもあるのです。

もうひとつの大きな問題は、「近隣住民が長期間にわたって異変に気づいていながら、誰も対応できずに放置される」という構造です。たとえば、「通報するとトラブルになるのでは」と不安に感じたり、「他人の家庭の問題に口を出すべきではない」とためらったりすることで、対応が後手に回るのです。これにより、事態が深刻化してからようやく介入されるケースが非常に多くなっています。

このように、多頭飼育崩壊は単なる“飼い主の家の中の問題”ではなく、**周囲の安全・衛生・心理的な安心を損なう「地域全体の課題」**であると言えます。だからこそ、早期発見と地域ぐるみでの対応が求められているのです。

 

   

社会全体で防ぐための見守り体制

社会全体で防ぐための見守り体制

   

多頭飼育崩壊を未然に防ぐためには、「個人の責任」に任せきりにするのではなく、社会全体での見守りとサポート体制を整えることが不可欠です。なぜなら、飼い主本人が問題を自覚できない、あるいは相談できる相手がいないケースが非常に多いためです。

まず、見守り体制の要となるのは、地域で活動している民生委員や自治会、地域包括支援センターなどの存在です。これらの機関は、独居高齢者や障がいを抱える方の生活支援を行っており、その中で飼育状況の異変に気づける立場にあります。たとえば、訪問時に動物の数が急増していたり、室内が明らかに不衛生だった場合には、早期に専門機関と連携することで、事態の悪化を防ぐことが可能になります。

さらに、郵便配達員や新聞配達員、ごみ収集作業員といった日常的に地域と関わる職種の人々にも、「異常を察知したら通報できる」ルートを確保しておくことが重要です。こうした“地域の目”が機能することで、多頭飼育崩壊の初期サインを見逃さずに済むのです。

また、一般市民への啓発も不可欠です。「多頭飼育は自己責任」と切り捨てるのではなく、「誰でも崩壊を起こす可能性がある」という現実を伝え、共感と支援の意識を持つことが、社会的な予防につながります。セミナーや講演会、学校での動物福祉教育など、知識の普及も長期的には大きな効果を発揮します。

制度面では、早期警告制度や飼育数の届け出制度などの導入も検討に値します。たとえば、特定数以上の動物を飼う場合に届け出を義務化し、行政が定期的に飼育状況を確認することで、潜在的なリスクを事前に把握することが可能です。

つまり、見守り体制とは「困っている人を監視する」ことではなく、「孤立を防ぎ、手遅れになる前に声をかけられる関係性を築く」ことです。動物と人、どちらも守るために、社会全体での見守りの輪を広げていくことが、これからの時代に求められる姿勢と言えるでしょう。

 

   

多頭飼育崩壊予備軍の特徴と早期発見のポイント

   

多頭飼育崩壊を未然に防ぐためには、「崩壊に至る前の兆候=予備軍の段階」をいかに早く発見できるかが重要です。結論から言えば、特定の行動や生活環境を見ていくことで、危険性のある飼育者を早期に見つけ出すことが可能になります。

まず、多頭飼育崩壊の予備軍に見られる特徴として多いのが、「動物がどんどん増えているにも関わらず、飼育環境や資金に変化が見られない」状態です。たとえば、もともと2匹の猫を飼っていた家庭が、保護や出産をきっかけに10匹以上に増えているのに、住居の設備や掃除の頻度、エサや医療への配慮が追いついていない場合は、リスクが高いと判断できます。

また、「避妊・去勢をせずに動物を飼っている」「家の中に強い動物臭がある」「ケージやトイレが清掃されていない」「明らかに体調不良の動物が複数いる」といった状況も、予備軍のサインとして知られています。これらの兆候は、実際に飼い主本人が「問題だ」と自覚していないケースが多いため、周囲の人間が敏感に察知することが求められます。

さらに、心理的な面での特徴も見逃せません。「動物を手放すことに極端な拒否感を示す」「『かわいそうだから』『助けたかった』という理由で飼育数を正当化する」「他人の助言や支援を拒否する」といった傾向が強く見られる場合は、アニマルホーディングの兆候を含んでいる可能性があります。こうしたケースでは、本人の善意がかえって状況を悪化させている場合もあるのです。

では、どのようにして早期発見につなげればよいのでしょうか。一つの方法として有効なのが、「周囲の人が定期的に状況を見守ること」です。特に、動物の鳴き声が常に聞こえる、異臭がする、出入りが少ない、新聞や郵便物が溜まっているといった小さな異変があれば、それは予備軍のサインかもしれません。民生委員、ケアマネジャー、配達員、自治会など、地域の関係者が“見守り役”として機能すれば、早期の発見と対応が可能になります。

また、行政や保健所、動物愛護団体などが連携し、「気になる状況を報告できる窓口」を設けておくことも効果的です。相談すること自体に抵抗がある人も多いため、匿名でも通報できる仕組みがあると、行動に移しやすくなります。

このように、多頭飼育崩壊は突然起こるのではなく、必ず「前兆」があります。小さな異変に気づき、声をかけ、必要に応じて専門機関へつなげる。こうした積み重ねが、動物の命だけでなく、飼い主自身の生活も守ることにつながるのです。社会全体で目を配る意識を持つことが、最大の予防策になるでしょう。

 

   

多頭飼育崩壊の原因と早期対応の重要性について総括

記事のポイントをまとめます

    

  • 多頭飼育崩壊とは動物の数が管理不能になり劣悪な環境になる状態
  • 善意から始まった保護が結果的に崩壊を招くことが多い
  • 飼い主の知識不足により避妊・去勢を行わず繁殖が連鎖する
  • 猫は特に繁殖力が高く爆発的に頭数が増える傾向がある
  • 飼育費用が増加し経済的に困窮すると世話が行き届かなくなる
  • 医療費や食費が払えず病気や怪我が放置される場合がある
  • 地域社会から孤立すると異変に気づかれず支援が遅れる
  • 高齢化により体力や判断力が低下し管理が困難になる
  • 飼い主の精神疾患が飼育放棄やホーディングに発展することがある
  • 共食いは飢餓やストレスが極限に達した結果として発生する
  • 行政は法的対応や一時保護など制度的な支援を担う
  • ボランティアは保護や譲渡活動など現場の支援を担う
  • 行政と民間が連携しないと対応に混乱が生じる
  • 周辺住民が臭いや騒音から生活被害を受けることがある
  • 社会全体での見守り体制が早期発見と予防につながる

   

   

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はるいち

・西日本にある某国立大学獣医学科を卒業、獣医師免許取得。 ・卒業後は県職員として、保健所や動物愛護センターに勤務。 ・大学病院を経て、現在は九州の動物病院で犬や猫、小動物を中心に診療・予防医療に従事。 ・Webメディア監修、獣医師や飼い主向けセミナー講演、メディア取材などでも活動。 (所属:日本獣医師会、日本ペット栄養学会、ペット食育協会など)

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